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私の知る限りではおそらく最高のクオリティを持つタープ、リッチウェルヘキサウィング。素材、縫製等細部にわたって徹底したヘビーデューティーな作りは、予想される使用状況の枠を上回るスペックを有しています。大小ふたつのサイズがあり、ポールと引き綱のセティングを変えることで実にさまざまなシチュエーションに対応することが可能。
そしてなんと言ってもこのタープの最大の魅力はそのカラーリングとフォルムの美しさにあります。淡いベージュ色は四季さまざまな自然の色彩に上品に溶け込み、トップのカテナリーアーチとエンジ色に縁取られた輪郭線の作り出す全体のシルエットは実用性と空力を追求・計算し尽くされた機能美を持っています。
「リッチウェル」は、現在*snow peak*で数々の信頼性の高いアウトドアグッズの開発にあたっているデザイナーY氏が、数年前まで「アドベンハット」というショップで独自に展開していたブランドです。
残念ながら、Y氏が*snow peak*に移籍後は「アドベンハット」は閉店してしまいました。「リッチウェル」は現在ではすでにレア物の仲間入りでしょうか?
私のキャンプグッズへのこだわりの原点にもなったこのタープとの出会いを中心に物語を始めたいと思います。
◆第一章:引き裂かれたタープ
1992年8月長野県野沢温泉スタカ湖キャンプ場でのこと。
まだうちにケビンもルークも、もちろんクレアも居なかった頃のお話です。
バイクでのツーリングキャンプから車で出かけるオートキャンプへと、少しずつ我家のキャンプスタイルが変わっていった頃でした。そのころは、まだカヌーにも乗っていませんでした。
台風の接近を伝えるニュースを他人事のように聞き流して、無謀にもキャンプにやってきた我家のサイトには、ホームセンターで購入したばかりの○千九百円の真っ青な“ドカシータープ”が張られていました。
怪しい雲行きの下、それでも昼間はプラスノースキーなどで遊んでから、ふもとの野沢温泉までMTBでダウンヒル、そして温泉にも入ってフルコースを楽しんだのです。。
サイトで夕食を済ませて、いつものようにアーリータイムスのお湯割を飲み始める頃になると、夕方から吹き始めた風が、嫌な感じで強くなってきました。そんな天気でも、8月のシーズンとあって結構な数の物好きのグループやファミリーでキャンプ場内は賑わっていました。
周りのサイトでは、嵐の前触れに、慌ただしくテントやタープをチェックするお父さんと、それを不安そうに見守るお母さん、そしてそんなことは気にもせずにテントの中で元気にはしゃぐ子供たちの声などが聞こえてきました。
雨が降ってないのが唯一の救いでしたが、風は不規則に強弱を繰り返し、時折林間のキャンプサイトを猛烈な勢いで吹きぬけてゆきます。そのたびに、ランタンの光に浮かび上がるブナの大木が枝を大きく揺らしてざわめき、引きちぎられた葉っぱに混じってコンビニ袋などがキャンプ場内を舞い乱れ始めると、殆どのサイトではタープを片付け始めました。と言うより、倒れてしまったタープを丸めてしまっているのです.。
私も、ドカシータープの引き綱にしっかりテンションをかけて予備のロープで補強。雨道もしっかりと作り、そしてペグのささり具合を念入りにチェック。
それほど遅い時間ではなかったのですが、起きていても不安な気持ちが膨らむだけなので、もう寝てしまうことにしました。前回のキャンプでは、不覚にもランタンをハンガーから下ろすのを忘れてしまい、夜中に落下してホヤを壊してしまっていたので、今回は、グローブガードを丁寧に巻きつけてテーブルの下に片付けてテントに入りました。シュラフにもぐりこむと、外の様子が不安でもありましたがビールとバーボンのおかげで、すぐに深い眠りに・・・どれほど時間が経ったのでしょう?・・・
・・・バリバリ!!と言うすさまじい音で目がさめました。
シュラフのファスナーを開けるのももどかしくテントから這い出ると、引き綱とポールだけで自立している“物干しロープ“に、青くて巨大な洗濯物のようになったドカシータープがからまって暗い夜空を背景にバタバタとはためいていました。それは狂ったように暴れまわり、放って置けば今にも暗黒の夜空に舞い上がりそうでした。
・・・“こうなると思った・・・”という気持ちと、“まさかこんな・・・”と言う気持ちの入り混じった複雑な心境で、私は暴れまわる化け物を必死で取り押さえたのでした。
よく見ると、ロープにはいくつかの銀色のグロメットだけが悲しそうに残っていました。こうしてドカシータープの使命はあっけなく終わりました。
◆第二章:強いタープが欲しい!
帰宅後、早速いろいろなカタログを調べました。
ある雑誌の中に、テント・タープの特集を発見。その中にひときわ目を引く美しいタープの写真があったのです。リッチウェル・ヘキサウィングとの最初の出会いでした。
ヘキサゴン(六角形)とウィング(翼)をドッキングさせた“ヘキサウィング”という初めて聞くその形状は、セクシーな曲線で縁取られた優美なシルエットでした。それは、二本のポールと、テンションを適正に配分していると見受けられるロープワークによって絶妙なバランスで立てられていました。
「いろいろな道具を使ってみても不満な部分があった。いっそのこと自分で作ってしまおうと思った・・・。」というようなコメントの横に髭をたくわえた“Y氏”の顔写真がありました。
Y氏の解説は更に、グロメット部の材質や補強等について詳しく続いていました。それはすべてにわたってこのタープのクオリティの高さを髣髴とさせるものでした。
これだ!と思った私は早速電話で注文。
待つこと数日。
私の手元にリッチウェル・ヘキサウィングが届きました。
梱包を開くと、本体と一緒に詳しい説明書が入っていました。本体を六畳の部屋に広げて、その上に腹ばいになって説明書を読みました。設営の仕方や、ポールやペグの選び方などがとても詳しく説明してありました。
翌日近所のアウトドアショップでスチール製のスクリューポール二本、4_の引き綱30メートル、丸棒タイプで30cmのペグを8本、そして自在金具を購入しました。
庭でいよいよ試し張りです。説明書通りに作業すること約40分。
雑誌で見たのと同じ美しいシルエットが私の目の前に立ち上がりました。
私は、腕組みをしてそれを眺めながら、八月の信州のリベンジを心に誓ったのでした。
◆第三章:ペッ・・ペグが・・・
その年は九月に照月湖、十月末に中禅寺湖へと二泊づつのキャンプに行きました。
照月湖のサイトは木立のあいだに自然に区画が整地されていて、小石混じりながら引き締まった地面で、ペグの刺さりも素直で効きも充分でした。
北軽井沢の早い秋、色付き始めた雑木林をバックに見る新しい“マイタープ”は殊のほか美しく私は大いに満足したのでした。
次に出かけた中禅寺湖畔の菖蒲が浜キャンプ場では、ミエさんが「ここがいい−!」と言った岬の突端、最も湖面と男体山の眺望の良いサイトを選びました。なんと言っても十月も末の平日ですから、キャンプ場は事実上貸しきり状態。早速リヤカーで荷物を運び、まずはタープの設営です。
タープを地面に広げ、ポールを並べ、ペグの位置を決めてハンマーで・・・・・・ここで困った事態が発覚しました。ペグが刺さらないのです!
地面は、一見素直な土に見えて、実は内部はごろごろと硬い石が混じっていました。 湖に突き出した岬の突端を、盛り土で整地してあるようでした。打ち込んだペグはすぐに石にあたってしまいハンマーで叩いてもそれ以上は先には進んでくれません。引っこ抜いては少しずらした場所にまた打ち込む・・・と言う作業は遅々として進まず、私のイライラは募るばかりです。待ちきれずにテーブルセットなどをはじめたミエさんが、「あっちに引っ越す?」と奥の方の林間サイトを指差して妥協案を申し出るのですが、私は意地になって「ここがいいー!」とペグ打ち作業を続けました。
何度も石にあたり無理やりハンマーで叩かれたペグはグニャグニャに変形してしまい、やっとの事で何とか地中にとどまる事に成功したのでした・・・。全ての設営が終了したときには、晩秋の早い日没で、あたりはすっかり暗くなっていました。
中禅寺湖から帰って、すぐに私は“強力なペグ”を探しました。今ならば迷わず*snow peak*の「ソリッドステーク」を選ぶところですが、それには3年後の’95年の発売まで待たなければならなかったのです。
思案の末、私は、ホームセンターの建築資材のコーナー出を物色しました。そこで発見したのが、見かけのゴツイ直径15_ほどの鉄杭でした。このとき、ハンマーもヘッドの大きなものに新調。
帰宅し、クロームシルバーの鉄杭をブラックに塗装。自宅の庭先の固そうな場所を選んでパワーアップしたハンマーで打ち込んでみました。グイグイと地面に刺さっていく感触がなんとも逞しく、中禅寺湖で味わった苦々しい無力感はどこかへ吹き飛んで行きました。
その後’95年の「ソリッドステーク」の登場まで、この鉄杭ペグが私の強い見方でした。ところが、その鉄杭ペグは何度かの使用の後、やはり軟らかい材質のためにヘッド部が次第にぺちゃんこになってゆくのでした。(ソリッドステークは鍛造鋼鉄製) 何度かの世代交代を繰り返して、ソリッドステークの発売までなんとか“世界最強のタープ”を支え続けました。
何度も痛い目にあいつつも、「大型タープをしっかり安定させるには、強力なペグが必要だ」と言うことにようやく気付いたのでした。この時点で「ポールも・・・」と言うことに気付いていたなら、自分で自分を誉めてやってもいいのですが・・・。
◆第四章:折れたポール…
丈夫なタープ本体、4_の引き綱、強力なペグ…そうです、まだポールが残っています。
おそらく最強のポールは*snow peak*のφ30mmウイングポールなのですが、以前私が使っていたのは、スチール製のスクリューポールでφ25mmほどのものでした。メーカーは何処のものだったか忘れてしまいました。
折れたときの状況は以下のようなものです。
二年後の‘94年、その年はじめたカヌーでキャンプに出かけたときのこと。
カヌーと言ってもフォールディングカヤックの中古を格安で購入したのです。知り合いのSさんの紹介でファルボット社の「パイシス」と言う頑丈なファルトボートを手に入れた私は、さっそくSさんと一緒に裏磐梯の小野川湖へと出かけたのでした。
カヤックに荷物を積んで陸からは入れない浜に上陸してキャンプをすると言うのがその時の目的です。上陸地点が砂浜であることを予想してアンカーペグに繋ぐためのロープの用意もして準備万端です。
カヤックでゆっくり漕ぐこと約一時間。上陸できる浜に到着。絵に描いたように美しいプライベートビーチです。予想通りサラサラの砂浜にテントを張り、タープを立てました。たくさん落ちている流木の中から手ごろなものを拾って十字に縛ってアンカーペグにしました。砂に30センチくらいの穴を掘り中に埋めるとしっかりとテンションをかけられます。引き綱の強度もばっちりです。ポールは砂に埋まらないように、ひらべったい石を拾ってきてその上に立てました。テントも組み立てて乗ってきたカヤックをタープのそぐそばまで引き上げました。
設営を済ませて少し離れたところから眺めると・・・
なんと美しいキャンプサイトでしょう!わたしが求めていたシチュエーションはまさにこれだったのです。初めてのカヌーキャンプ。プライベートビーチのタープの下で飲むビールの味は最高でした。
その後再びカヤックを漕いで三十分ほどのところにある温泉へ行きました。すこし風がでてきましたが、風呂上り、いい気持ちでカヤックを漕いでキャンプ地へ戻ると・・・オヤ?タープが・・・
・・・ポッキリとポールが折れていました。強力すぎる?アンカーペグのおかげで結局一番弱い部分が破損してしまったのでした。スチールポールはジョイント部のすぐ近くで見事にポッキリと折れていました。せっかく作った美しいキャンプサイトはなんとも悲惨な姿に変身してしまったのです。
仕方が無いのでタープを丸めてカヤックの中にしまうと、間の悪いことになんと雨が降り出しました。砂浜をダークグレーに染め替えた雨を、テントの中から眺めながら、プライベートビーチの一夜を過ごしたのでした。
翌日も雨はやまず、砂だらけになった装備をカヤックに押し込み、沈もしてないのにずぶ濡れになって、車を停めた浜まで戻りました。
砂まみれでびしょ濡れになった装備とカヤックをたたんでいると、ザーザーという雨音に混じって♪行きは良い良い帰りは・・・♪という童謡が何処からとも無く聞こえてきたような気がしました。
◆第五章:結びとウンチク
その後、直ちにポールをφ30mmウイングポールに新調しました。さらに‘95年、*snow peak*からソリッドステークという鍛造鋼鉄製の強力なペグが発表されて初めて、ようやく私の「タープ」は完成したのです。
じつに“スタカ湖の悲劇”から三年の歳月を要したことになります。その間、自在金具なども、より強力なものを求めて何度かの試行錯誤を繰り返しました。
その過程において私が繰り返した失敗は、“アドベンハット”のY氏と*snow peak*の製品開発理念によって報われてゆくのでした。そして現在“リッチウェル”は*HD−Tarp
Series*へと進化を遂げています。
「自分自身がユーザーとして欲しいものを形にするという非常にシンプルなモノづくりのポリシー」・・・*snow peak*のカタログからの抜粋です。これは‘92年に雑誌の特集のなかでのY氏のコメント「いろいろな道具を使ってみてもどうしても不満があった、いっそのこと自分で作ってしまおうと思った。」と見事に一致しています。
一言で言えば“使える道具”。しかも時には厳しい気象条件のなか、ある程度の年月、行動を共にすることのできる信頼性のある道具。アウトドアグッズとはそういうモノでなければならないはずです。
そして、実用性を満足させたモノのデザインは必ず美しいものです。野外で使用するキャンプグッズは使っている本人だけでなく、それをたまたま見た人にとっても心地よいデザインである必要もあると思います。わたしは、キャンプに出かけると、サイトの見かけにとてもこだわるようになりました。何より自分が快適と感じる空間で気持ちよく過ごしたい。しかも、それを誰かが見ているかもしれないのですから。
以前、ヨーロッパを旅行したとき、町並みの美しさに感動した覚えがあります。ただ美しいだけでなく人々はそこで生活を楽しんでいる。スペインのアンダルシア地方で見た家々の壁には、通りに面してたくさんの花の鉢がひっかけてありました。歴史と伝統の上に自然な形で現代生活が営まれていて、自分の国に比べると“文化”の厚みの違いを痛感しました。景観は公共のものであるから、たとえ自分のテリトリーといえども周囲との調和を考慮するのがあたりまえだ、ということが常識として定着しているというこです。キャンプサイトの装備一式も周囲の景観に配慮したものであるべきでしょう。
タープという道具を考えてみると欧米ではあまり発達していないようです。せいぜいMOSSが唯一こだわりを持って作っているだけではないでしょうか。雨の多い日本の風土と、レジャーとしてのキャンプスタイルの変化の中で日本のタープは独自に発達してきました。キャンプサイトに並ぶさまざまなモノの中でタープはもっとも大きなシルエットを持ちます。一番大きくて目立つタープですから、美しくなくてはならないと思うのです。
日本のアウトドアが“文化”へと昇華して行くためには、このあたりにキーポイントがあるのかもしれません。私たちには世界に誇るすばらしい自然観の伝統があるのですから。
「美しい」ということについて落ち着いて考え、感じてみると。そんな目的で、この遊びを楽しんでいます。
2001年早春・タープの下で…
…ケビパ
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